1 研究の概要
再帰性反射材とホログラフィックプロジェクタを用いた三次元映像空中表示装置を開発した. 開発した装置により,目の前の空中に浮かび上がる三次元映像と奥行きの深いところに空中表示された 三次元映像を同時に裸眼で見ることが可能となった.さらに,視野角が広いことから,空中表示された 三次元映像を複数の人が裸眼で様々な角度から眺めることも可能となった.実際に,開発した装置によ って再生される空中像を検証し,実現できていることを確認した. 本装置を構成するホログラフィックプロジェクタでは,計算機合成ホログラム(CGH:Computer-generated hologram)を用いる. CGHは計算量が膨大であるため,CGH計算に12枚のGPU(NVIDIA GeForce RTX 4090)を搭載したマルチGPUクラスタシステムを構築し, 高速なCGH計算を実現した.マルチGPUクラスタシステムと三次元映像空中表示装置を用いてリアルタイム三次元空中表示が可能となることが確認された.

2 研究の目的と背景
ホログラフィとは,三次元物体からの光の波面を微細な干渉縞として二次元媒体(ホログラム)に忠実に記録する技術. または,ホログラムに光を照射し,元の三次元物体からの光の波面を忠実に再生する技術のことである. ホログラフィによって再生された三次元像は様々な角度から眺めることができ(図1),視覚疲労も生じない. このことから,電子化したホログラム技術(電子ホログラフィ)は「究極の3Dテレビ」になると考えられている. 電子ホログラフィは,コンピュータで作成したホログラム(計算機合成ホログラム:CGH)を空間光変調器(SLM)に表示する. SLMに光を照射し,観察者がSLMを覗き込むことで,CGHによる回折光が目に届き,三次元物体が空中に再生される(図2). 電子ホログラフィは,CGHによる回折光を用いて三次元像を再生するため,CGHの1画素の大きさは波長オーダ(1μm以下)が望ましい. さらに,大きな三次元像を再生するためには同じ大きさのCGHが必要となり,CGHの画素数も膨大となる. そのような,CGHを表示するSLMは未だ開発段階にある.CGHの計算量は,CGHの画素数,三次元物体を構成する物体点数に比例する. よって,CGHの計算量とデータ量は膨大となる.これらのことが,電子ホログラフィによる三次元テレビの実用化を妨げている. 一方,映像を実像として空中表示する空中ディスプレイの研究が行われている. コロナ禍において,非接触型空中タッチディスプレイとして実用化され,国内外で注目を浴びている. しかし,現在実用化されている空中ディスプレイは,二次元映像が空中表示されたものである. 本研究では,CGHによる回折光を用いて,実像として三次元映像を投影するホログラフィックプロジェクタを用いる. ホログラフィックプロジェクタは,レンズを使用することなく,1台のプロジェクタで任意の三次元形状を持つ複数の立体スクリーンに焦点のあった三次元映像を投影できる. 再帰性反射材と1台のホログラフィックプロジェクタを用いて,裸眼で目の前の空中に浮かび上がる三次元映像と奥行きの深いところまで空中表示された三次元映像を同時に見ることができる. さらに,視野角が広く,空中表示された三次元映像を複数の人が裸眼で様々な角度から眺めることができる. そのような三次元映像空中表示装置を開発することを目的とした.

図1 ホログラムによる三次元像

図2 電子ホログラフィ


3 研究内容
概要

4 本研究が実社会にどう活かされるか―展望
現在実用化されている空中ディスプレイは,二次元映像の空中表示となっている. 本事業で開発した三次元映像空中表示装置は,複数人が裸眼で同時に,目の前で空中に浮かびあがる三次元映像と,遠くに空中表示される三次元映像を見ることができる. このようなディスプレイは未だ存在していない. 視野角が広く,精確に大きさを再現でき,空中描画を可能とし,空中像と現実物体を重ねることもできる. 応用性が高く,非常に特色のある三次元映像空中表示装置であるものと考える. 今後も実用化を目指した研究を継続することで,デジタルサイネージ,立体的なデザイン設計ツール,教育教材(オンライン教育,空間認識力の育成),医療をはじめ多様な分野での活用が期待できる. ネットワークを介せば,遠隔における三次元情報のコミュニケーションツールとなるものと考える. 世界の至る所で,精確な三次元情報を共有でき,リアルタイムでディスカッションすることが可能となる. リモートワークに活用すれば、育児や介護と仕事の両立も可能となる. アフターコロナにおける新たな生活様式を生み出す可能性を秘めた技術であると考えている.

5 本研究にかかわる知財・発表論文等
【特許】
国際出願番号:PCT/JP2022/026020
発明の名称:空中投影装置

【学会発表】
(国際会議)
1. J. Uchida, N. Furukawa, Y. Nakatani, N. Takada, “Real-time Aerial 3D Display Using Holographic Projector and Resin 3D Screen,” Proc. of International Display Workshops (IDW '23), vol.30, 3Dp1-4L, pp.701-704, Japan, 2023.
2. J. Uchida, S. Wada, Y. Narishima, Y. Oda, Y. Moriguchi, N. Takada, “Real-time Aerial 3D Display Using Holographic Projector,” Proc. of the International Display Workshops (IDW'22), vol.29, 3Dp1-10L, pp.614-616, Online, Japan, 2022.
3. Y. Narishima, T. Mitani, S. Wada, K. Suzuki, H. Hamada, N. Takada, “Real-time 4K Electroholography with Multi-GPU Cluster System Based on Ampere Architecture,” Proc. of the International Display Workshops (IDW'22), vol.29, 3Dp1-11L, pp.617-620, Online, Japan, 2022.
(国内学会)
1. 成島 佑華,三谷 永久,和田 翔夢,髙田 直樹,“ヘテロ型マルチGPUクラスタシステムによるリアルタイム電子ホログラフィ,”第22回情報科学技術フォーラム(FIT2023),2023.(FIT奨励賞)
2. 内田 十内,成島 佑華,小田 好洸,森口 嘉軌,高田 直樹,“ホログラフィックプロジェクタを用いたリアルタイム三次元映像の実像と虚像の空中表示,”第22回情報科学技術フォーラム(FIT2023),2023.
3. 内田十内, 戸田和希, 高田直樹,“ホログラフィックプロジェクタを用いた空中三次元動画再生の検討,”3次元画像コンファレンス2023,5-1,2023.
4. 成島佑華, 大西優輝, 内田十内, 髙田直樹,“ポータブルホログラフィックプロジェクタを用いた空中ディスプレイの開発,”立体メディア技術研究会(3DMT),2022.
5. 成島 佑華, 森口 嘉樹, 山崎 隆史, 髙田 直樹,“ポータブルホログラフィックプロジェクタを用いた階調を持つ三次元映像の投影,”第21回情報科学技術フォーラム(FIT2022)(2022).
6. 内田 十内, 成島 佑華, 小田 好洸, 森口 嘉軌, 高田 直樹,“ホログラフィックプロジェクタを用いたリアルタイム空中描画システムの開発,”第21回情報科学技術フォーラム(FIT2022),2022.(FITヤングリサーチャー賞,FIT奨励賞)
7. 和田 翔夢, 三谷 永久, 鈴木 康平, 浜田 端三, 髙田 直樹,“AmpereアーキテクチャのマルチGPUクラスタシステムを用いたリアルタイム時空間分割多重電子ホログラフィ,”第21回情報科学技術フォーラム(FIT2022),2022.(FIT奨励賞)
8. 成島佑華, 森口嘉軌, 髙田直樹,“再計算せずに再生像の明るさを調整可能なポータブルホログラフィックプロジェクタの開発,”3次元画像コンファレンス2022,1-3,2022.